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2014年09月02日 (Tue)
前回のブログで言ってた若様番外編出来たのであげにきました。
お前…本気出せば一週間で小説書けるんじゃないか……!!

まあ、この話、構想自体は先々月の末から練ってたので実際のところ一ヶ月以上かかってますけどねー……(遠い目
連載ものじっくり練って一ヶ月、ならともかく、大して伏線の必要のない短編くらいは、プロットから仕上げまで、二週間ぐらいでいけるようになりたいものです。

数こなすしかないかなあ……。

実は最近、頻繁に日記書きに来てるのもリハビリの一環です。
ひどいんだよー。日記ひとつ書くのに一時間以上かけるときあるんだよー。
何やってんだ、って感じですよねー。

ま、いいや。
それでは続きは小説ですー。




 門をくぐるや否や、待ってましたと言わんばかりに小姓たちが出てきて、「助けてください」と泣きついてきた。
 それだけで、屋敷の主人――ほうじは、主不在の屋敷に誰が来ていて、何をしているのか、それを悟った。おもにサディスティックで、ときにドメスティックでさえある主の気まぐれ、または無茶ぶり、に振り回され慣れているはずの家来たちでさえ、対応しきれない“客人”ともなれば、思い当たるのは一人しかいない。
 ―――ので。
 自室の前で、溜息、ひとつ。
 叩きつけるように、ふすまをあけた。
「何やってんでさァ」
「あ、ほうじ茶くん。おかえりー」朱音は、ひらひらとDVDのケースを振った。「これ、借りてるよん」
 中身は、今まさにテレビ画面に映っている。「大喜利ってあんま見たことないんだけど、結構面白いね」数年前、笑点が40周年を迎えたときに発売された、DVDボックス、第一巻。ラックの奥に仕舞い込んでいたはずのそれを、どうやら、勝手に引っ張り出してきたらしい。
 畳には他にも、三遊亭圓生だとか、古今亭志ん朝だとか、ほうじが集めたコレクションのほとんどが、散らばっている。
 あまつさえ、それらに混じって食い散らかした饅頭の包み紙だとか、果ては、ほうじのものでない茶筒まで転がっている。ちゃぶ台の上にも同じく、見覚えのない茶器が一式。わざわざ持参したのか、と思うと、呆れてものも言えないけれど、だからと言って、このままでいいわけでもない。
 うんざりと、目を伏せ、一言。
「帰りなせェ」
「だが断る」
 びりっ、と、空気が張りつめた。
 テレビから流れる、とんちの利いた答え、湧き起こる笑い声が、いやに癇に障る。朱音はもぐもぐ、饅頭を頬張っている。ああ、くそっ。めんどくせェったらありゃしねェ。
「あんたのひまつぶしに付き合ってやるひまなんざ、オレにはねェんでさァ」
「そんなこと言わないでさー。仲良くしようよ、ひま人同士?」
「ひまじゃねェっつってんでしょう」
 にべもなく答えていると、朱音は「ふーん」と挑戦的な笑み。
「玉もいないのに?」
 ……見透かされたようで、気分が悪かった。
「関係ありやせん」
「冷たいなー」新しい饅頭の包み紙を解きながら、朱音は唇を尖らせる。「わたしはひまだよ。玉がいなくて」柄にもなく素直な言葉は、本心ではあろうが、多分、ほうじを煽る為に吐かれたものだ。
 君は違うんだー。へー、ふーん。あいがないねー、あいが。ひしひしと向けられる視線に、そんな含みを感じとって、ほうじは苛々、苦虫をかみつぶす。
「たかが一週間でしょう」
 玉が、喚び出された。
 それきり、まだ、帰ってこない。
「もう一週間、だよ」
 平然と強がるほうじに、朱音は不満そうに、こぼす。
 向けられるジト目が、「なんでそんな平気そうなの」と暗に質している、けれど。馬鹿言っちゃあいけねェ。アンタとオレとじゃ、玉との付き合いの長さが違う。
 もともと、玉はこういう若様だ。
 滅多に喚び出されない。代わりに、一人一人にかける時間が長い。人間びいき、マスターびいきで、ちょっとやそっとじゃ願い事なんて使わせないから、なかなか戻ってこない。
 短くとも十日、長ければひと月――向こうの一年にあたる――にも及ぶ、不在期間を繰り返すごとに、ほうじは玉のいない日々の、いなし方に慣れた。一等お気に入りのおもちゃが、いつ帰ってくるのかもわかんねェのを待ちぼうけするのは、それはもちろん苛々するし、落ち着かねェし、寂しい――とは、決して言わないけれど。そんなことはとっくに、折り合い付けていることだ。
 糖分やけ食いモード、イライラもそわそわも、持て余している感全開の朱音を、鼻で笑う。
「そんなにひまなら、趣味のひとつぐれェ見つけなせェ」
「えー……。めんどくさい。ほうじ茶くんが遊んでよ」
「だが断る」
「ひますぎて死にそー」
「構いやせんけど。くたばんならオレに迷惑かかんねェとこでしてくだせェ」
「大丈夫。遺書にはちゃんと、ほうじ茶くんのせいです、って書いておくから」
「ふざけんなこのヤロー」
「あーもう。ひまひまひまひま」
「うるせぇ」
 ぱちんっ、と鳴らして、朱音の頭のてっぺんめがけて、ピコピコハンマーをひとつ。落っことすと、喚くひま人は、ようやく沈黙した。ぱたり、とちゃぶ台に伏せり、そのまま動かない。
「することねェなら帰りなせェ」
 当たり所が悪かったのでは、なんて、心配はしない。
 ほうじは、朱音のことはそれ以上見向きもせずに、しっちゃかめっちゃか散らかった、DVDの片付けを「―――ねえ、」

 不意打ちに、腕を、引かれた。
 抱え持っていたDVDが、ばらばらとこぼれた。バランスを崩したほうじの目の前に、彼女の、朱音の、吸い込まれるような、瞳が、

「遊んで?」

 ふすまが、すぱーんっ、と開いた。
「ほうじー!! ただいま! ねえねえ、聞いて! 今回のマスターは、ね……、え?」
 そして、玉は凍り付いた。
 ふすまを思いっきり開け放った仁王立ちのまま、目の前の光景を、処理しきれずにフリーズしている。そりゃ、そうだ。ふだん、玉を巡ってあれだけいがみあっている二人が、まるで、仲睦まじい恋人同士がじゃれあっているような距離で、見つめ合って、っていうか、え? なんで朱音が、ほうじの家にいるの? きょとん、とした表情が、次第に青ざめていく。まさか、まさかまさか。仕事にかまけすぎた? あまりにも帰ってくるのが遅くて、愛想尽かされた!? ぐるぐると目を回している玉の内心を、ほうじも朱音も、それこそ、手にとるように、理解している。
 ので。
「おかえりなせェ、玉」
「おかえり、玉」
 一瞬一秒のアイコンタクトで示し合わせて、ほうじと朱音は、笑った。「今ね、ほうじくんとイチャイチャしてたんだ。玉も仲間に入る?」見せつけるように、べたべたと体を寄せ合う。「そんなこと堂々と言ってっと、玄米にどやされやすぜぃ」
「えー、大丈夫だよ。玄米くんだって、どうせ、仕事中じゃん」
 玉が、ぷるぷるとふるえだす。
 青かったはずの顔色が、徐々に赤く染まっていく。もちろん、朱音とほうじは、そんなことには、気が付かないふりだ。「ばれっこないよ。玉が黙ってくれればね」
「だ、そうですけど。――玉? いつまで突っ立ってんでさァ。なんか言いなせェ」
 堪忍袋の緒が、切れる音が、聞こえた気がした。
 ひゅっ、と玉は息を吸い込んだ。

「ほうじのっ、ばかああああああああああああああああああああああああああああ!!」



 ―――遁走した玉の背中が、廊下の角を曲がる。
 その跡を目で追って、ほうじは、ふてぶてとふてくされた。「……なんで俺だけなんでぃ」
「さ、さあね……っ。日頃の行いじゃないの……っ」
 朱音は、腹を抱えて爆笑をこらえている。「あー、やっぱ玉かわいい。最高。かわいい」
「つべこべ言ってねェで、追っかけやすぜぃ」
「じゃあ、こっからはどっちが捕まえるか、勝負ね」
「負けやせん」
「わたしこそ」
 お邪魔しました!! と、玉は律儀に怒鳴って出て行った。荒々しく門戸を閉める音に、二人は最後に、もう一度だけ顔を見合わせて笑うと、何処に駆けて行ったとも知れない玉露の若様を探して、思い思いの道を走りはじめた。
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